原料には《苦が梅》と言われる、種子が大きくて果肉の少ない梅を使います。上等の梅は、果肉が豊富で種子が小さく、値段も高いので、一番安物の梅の方が適していましょう。種子の中の芯(梅核)が必須原料だからです。

最近発行された有名な月刊健康雑誌に、ある漢方薬学者が《梅の核》の効用を書いていました。それは、梅雲丹の宣伝文句をそのまま書いてもらったような”偏食グセが直る”等が列記されていましたし、偏食グセが直ったらどう言う病気が治るかまで詳しく説明してありました。そして、『梅核で作った《梅雲丹》と言う物があり、一流デパートに行けば手に入るが、高価だから自分で作った方が良い。』とまで書いてあり、少々閉口いたしました。確かにその通りですから・・・・・・。『もう少し、値段を安くするように研究せい!』とメーカーにお説教をしましたので、今後は値段の勉強をすると申しております。

《苦が梅》と書きましたが、梅の木が年数を経て古くなると、種子が大きくなり果肉に苦が味が出ますので、こう呼ばれるのです。柿で言えば渋柿みたいな感じですから、余り八百屋さんでは売っていません。国有林などに良く原生しており、採る人は少ないようです。

先ず、苦が梅を良く水洗いして、木灰のアク汁に一晩漬けます。

木灰のアク汁とは、木を燃やした灰を水に混ぜ、灰が沈殿した後上澄みの液を採って作ります。 このアク汁は、アルコールでは殺菌できぬ《枯草菌》などを殺しますので、中国ではお菓子などに入れて使う、天然の防腐剤です。鹿児島県に、《アク巻き》という名物の《ちまき》がありますが、これは一晩アク汁につけた餅米で作った《ちまき》で、夏でも腐りにくい日保ち食品です。南国の気候の中でも腐りにくい名物食品ですが、独特の風味も評判です。ほかにも、本格的なラーメンの麺の中には、木灰のアク汁が入っています。

アク汁から翌日とり出し、樽の中に焼酎と塩を交互に振りかけながら漬けこみます。焼酎は、塩を樽底に落とさずに梅に付着させるためと思ってください。勿論、焼酎も塩も殺菌保存料です。塩の量は、重量比で梅の八パーセント位、普通の梅干しを作る時の四分の一です。

(有)筑紫野物産では、六%物も作っています。

これらの作業をする時は、体を清潔に洗って清めてかかることが大切
で、等閑にするとカビが発生して失敗します。漬けこんで一ヶ月以内にカビが出たら、諦らめて塩を四倍に追加し、普通の梅干しにしてしまうしかありません。カビが出ずに成功しても、これが梅雲丹に変わるまでには、五、六年間そのまま安置して置かねば《苦が味》が除かれません。冷暗所に五、六年保存した後、取り出して果肉をはずし、種子はプライヤー等で割って中の核(白い芯)を採ります。

製造会社では、果肉と核を機械で摺りつぶし、裏漉し機にかけて《とろみ》にしますが、家庭では摺り鉢で摺っても大変ですから、梅酢を少し加えてミキサーにかけて下さい。少し液状に近い《とろみ》になりますが、効力は変わりません。五年の間に、核の成分も梅酢の方に滲み出ているからです。

メーカーの製品では、六年以上漬けこんだ苦が梅の梅酢は、梅雲丹の液状と言う商品名で売られています。

昔から伝わったのは《とろみ》ですが、液状も全く同じ効力があり、携帯も便利で飲みやすいので、現代人には液状の方が評判が良い位です。液状が売れて不足すると、メーカーでは果肉も種子も機械で圧搾して液状を作るそうですから、樽の中に残った梅酢も《梅雲丹》と思って良いのです。

問題は、種子の大きい苦が梅を採集することと、一朝一夕には作れないので、五年先の事まで考えて、平素から用意する心掛けです。気短かに、梅干しの種子を割って核を食べる人もいますが、食べないよりは良いでしょうが、多すぎる塩分が邪魔しますし、上等の梅の種子は小さくて、成分もなんとなく薄いようです。

※梅雲丹と馬油の専門メーカーである、筑紫野物産研究所には、常時数百トンの苦が梅が半地下の冷暗倉庫に漬けこまれ保存されています。見学者希望者には、産業スパイでない限り誰でもお見せするそうですし、馬油工場も評判で見学者がずい分多くなりました。