梅の酸味は、含まれている《クエン酸》の味です。クエン酸は、梅が人間の健康を守る重要な役割を果たしますが、クエン酸だけが効くのではなく、半分は梅に含まれている他の何かが効いているのです。梅干しと言う物は、日本独特の食品ですが、昔から《お腹の薬》つまり胃腸用の薬食と思われて来ました。
何故、梅が胃腸に良いのか学理的に研究されたこともありませんので、何時までも単なる家庭の健康食品として使われて来ました。

梅について学理的な研究をしたのは梅が採れる東洋の学者ではなく、西洋人でした。英国のクレーブス博士は、梅の薬効を研究して、クエン酸サイクルと言われる理論を発表し、その論文が世界的に認められて、とうとうノーベル賞まで受賞してしまいました。梅の研究を西洋人にしてもらうとは、日本の学会も情無いものです。

クエン酸は、人間が食用にする酸の中で、唯一つ『人体の肉質を溶かすような悪作用をしない酸』です。
食用のお酢(酢酸)にしろ、調味料やジュースなどに含まれる、リンゴ酸その他の酸は、大なり小なり蛋白質(肉)を溶かし、腐食させる性質を持っています。
それを利用したのが”しめ鯖”や”南ばん漬”で、生の魚(刺身)をお酢につけると、十分もすれば煮えたようになります。梅酢(梅から出た酸っぱい汁)に刺身を一時間漬けていても、刺身は生のままで全然変質いたしません。

人間が自分の胃の中に出す胃酸は、食べたものの蛋白質成分を溶かしてしまう強い酸で、科学的に成分を言うと《塩酸》です。塩酸や硫酸などは、一般に劇薬で知られており、鉄でもブスブス溶かしてしまう危険な劇物ですが、その塩酸を人間は自分の胃の中に分泌している訳です。分泌が異状に多過ぎると『胸やけがする』などと言います。自分の胃酸で、自分の胃がブスブス溶けたらたまりませんから、胃の内壁は粘液を出すゴムのような粘膜で覆われており、胃は塩酸で腐食されず食物だけが溶けるのです。

しかし、もし胃の粘膜壁が破れたら、自分の出した胃液で自分の胃を溶かして食べてしまいます。(これが本当に共食い!)こんな症状になった人を、胃潰瘍と言います。胃潰瘍の人が酢の物を沢山食べたら、自分の胃の一部が”しめ鯖”みたいに煮えるかもしれませんが、梅酢料理なら何の心配もいりません。専門の胃腸病院でも、胃潰瘍の入院患者に梅干を食べさせているものです。梅は無害なだけではなく、何かの薬効があるのですが、素人にはそれが何故だか解りません。せいぜい、『唾液が沢山出るから、良いのだろう。』という程度、唾液の中には澱粉を消化する酵素が沢山入っているからです。

英国のクレーブス博士の理論は、これも素人には難解な理論ですが、結論を解り易く言えば、血液がサラサラに浄化されて血の巡りが良くなり、体全体の新陳代謝が促進される、とでも言うことでしょうか。一時流行した健康流行語で言えば、『アルカリ性の体質になる』と言うことでしょう。しかし、これらの理屈が、実際に梅雲丹を食べていたら起こって来る効果と、どう結びつくのか皆目解りません。梅雲丹の効能は、理屈や学問では解明できぬ妙な現象で、しかしそれは事実ですから、認めざるを得ない不思議としか言いようもありません。

例えば、人参が嫌いで、どうしても食べてくれない四歳になる子がいました。人参だけでなくピーマンも嫌い、甘いお菓子が好きで、目玉焼きは何とか食べ、バターと白パン、ハム、ソーセイジ、牛肉は大好き、コーヒーは大人並みに好むと言う、現代っ子の見本みたいな子でした。甘い果物(バナナやメロン)なら食べるのですが、夏蜜柑などはとても駄目というのですから、酸い味の梅雲丹などとても受けつけてはくれません。そこで、母親も知恵を搾り、テレビの幼児番組を観ながら梅雲丹を舐め、『わーい、酸っぱ、すっぱ、すっぱっぱ!』と面白おかしくふざけて見せ、とうとう子供に舐めさせる事に成功、翌日から一緒になって、ふざけ遊びながら舐めさせました。

十日もしますと、何となく妙な感じになって来たそうです。今まで見えなかったものが見えると言うような感じ、と母親は表現します。
その頃、母子で二千五百円の梅雲丹とろみを一壜舐めてしまっていたそうです。
その日、夕食にカレーライスを作りましたが、いつもだったら器用にスプンで除けてしまう人参を、しきりに選り出して先に食べている我が子を見つめて、母親は思わず涙を流したそうです。もうその日から見違えるように変わって行き、一ヶ月も経った頃には、食物の好き嫌いをしなくなっただけではなく、あれ程好きだった甘いお菓子や肉類を食べる量がぐんと減ってしまったと言うのです。

これは、四才の幼児ですから、一ヶ月で完治しましたが、年を取って来ると、二ヶ月三ヶ月と年令に比例して少々日数は増えましょう。しかし、とに角食べ物の好みが変わり、食事が若い元気な青春時代のように美味しくなり、食べたいものを食べて後から気付くと、きちんとバランス良く食べている、という無意識のコントロールを、自分自身の食欲思想が行っている事が解ります。

有名な長寿の財界人で、目刺し(干し鰯)を頭から骨ごと食べる人がおられました。この方も、梅雲丹の大の愛用者でしたが、梅雲丹を愛用されていると、目刺しを頭から食べるのが美味しくなり、身だけをむしって食べると胸がもたれる感じになりますし、牛肉を食べる時は、肉の何倍もの野菜を一緒に食べぬと、肉が美味しく感じないようになってしまいます。すき焼きをすると、肉のダシで煮えた色々の野菜やコンニャクや豆腐が美味しくて、うっかりすると牛肉を沢山食べ残しますし、魚の方が肉より美味しくなったり、魚でも青魚(鰯、鯖、鯵、鰍など)の方が、高級魚より好物になって参ります。

昭和天皇は歴代天皇の中では最高齢を成就されましたが、鰯を骨ごと摺りつぶした《鰯だんご》が大好物の健康長寿陛下でございました。梅雲丹を召し上がっていたかどうか、それは畏れ多くて伺い知る訳にも参らず、秘そかに想像のみをたくましくして居ります。

こう言う本に、高名な有名人のご愛用者の名を書くことは差し控えねばならぬことで、残念ながら自粛いたしますが、梅雲丹を召し上がっていると、奇妙なことに、誠に貧乏たらしい質素な食事をされるようになりますので、大金持の実業家のくせに、麦飯をパクパク食べているような方には、梅雲丹のご愛用者が多いのです。それと言うのも、東京の一流デパートばかりで丸十年間もヒットを続けましたので、日本の上流階級に愛用者が増えたのです。

健康で長生きをする最高の方法は、先ず第一に胃腸を大事にすること、そしてバランスの良い食生活をすること、と私は確信しております。

建築で言えば、それが先ず土台(基礎)で、堅固な土台の上にこそ、上等華麗な家を建てる価値が生まれます。土台が弱ければ、上の建築がいくら上等でも、いつか突然傾きくずれてしまうでしょう。

梅と申すもの、苦が梅で作った古伝梅雲丹の効用の学理的解明は、全く不可能で未完ですが、この四十年の経験から、古代人の知恵の深さと、自然物の持つ神秘な効能には充分に圧倒されました。梅の薬効を最高に活かして作られたのが、《梅雲丹》でありますと、断言してはばからないのでございます。