※(脂肪酸の飽和をH、不飽和をFと略す)
馬油には、他の油には見られない特性がありますが、それは馬油の成分が出す特質です。通り一ぺんの分析をしてみても、牛や豚などの他の動物油と大差はなく、その性質の違いが何から発生するのかは解りません。

馬油を分析研究するためには、含有する脂肪酸を分析計量するだけでなく、その脂肪酸が≪飽和脂肪酸≫(以下、H脂肪酸と称す)であるか、或いは≪不飽和脂肪酸≫(以下、F脂肪酸と称す)であるかを確かめねばなりません。さらに、含有するF脂肪酸が高度か普通か低度かをF脂肪酸を含有する生物の多種類に亙って、比較検討して見なければ、馬油の特殊性質は確認できません。

牛馬豚羊などの動物油のほうが、植物油に比べると人間の脂肪に近いのですが、分析してみると、馬以外は殆ど≪H脂肪酸≫で構成されています。少しは、≪F脂肪酸≫も含まれていますが、それらは総て、低度の≪F脂肪酸≫です。同じ≪F脂肪酸≫でも、高度、中度、低度の違いがあり、その度合いで性質が大きく違うからです。

先ず、その度数を考えずに論じても、哺乳動物の脂肪の中で、馬脂のみが突出した多量の≪F脂肪酸≫を含有している事が特徴で、馬油の≪F脂肪酸≫の含有率は、60〜65%もあります。普通、≪F≫が多いのは、魚類の脂肪(魚油)で、魚類の中でも、地球の海を遠距離回遊する(長い距離泳ぎ廻る)魚に多く含まれており、淵にひそんでいるような魚には、余り含まれておりません。鰊、鮭、鯖、鰍、鰯などの魚油には、≪F脂肪酸≫が多いのですが、とても馬油の含有量(60〜65%)には及ばず、最も多い鰯油でも20〜25%位です。

しかし、馬油の特性の最大原因は、含有する≪F脂肪酸≫が高度のFである事、魚油の中で高度のFを持っている魚は鰊で、鰊油は馬油が三割混っている、と言っても良い程、馬油に似ています。しかし、陸上動物の中には似たものは見当たらず、鰊の油でも酷似とまでは言えません。

所が、調べてみると、全くそっくりの脂肪をもっている動物が、唯一つだけいました。それは人間でした。馬の脂肪が、人間の脂肪と殆んど酷似していたので驚きましたが、残念ながら、人間が持っている≪F脂肪酸≫が、馬と同じ高度のF脂肪酸であるか否かまでは、調べるすべがありませんでした。恐らく、若い中は高度のF脂肪酸で、中年を過ぎると変わるのでは・・・?

人脂の成分表も、日本のものは一般公開はされていないので、外国(仏)の文献で調査比較したのです。では、馬油に含有する特殊成分、≪高度の不飽和脂肪酸≫とは、一体どんな性質を持っているのでしょうか。
先ず、飽和している≪H脂肪酸≫から説明します。

≪H脂肪酸≫は、その分子配列が2個づつ連結しており、それは丁度、結婚して家庭を持った夫婦に似ています。仲良く寄りそい情緒安定の状態、うろうろ外出して動き廻ったりせず、一箇所にじっとしているのです。動き廻らないから、酸素などの無頼漢とぶつかって怪我する(酸化する)ことも少なく、食用油の品評では、『油性が安定していて酸化しにくく、日保ちが良い。』と賞められます。その反対に、鰊油や鰯油や、特に馬油などは、食用油としては甚だ不評で、『油性不安定、すぐに酸化して腐りやすい。』と言われます。

その訳は、含有する≪F脂肪酸≫の分子が、Hのように二個づつ結婚しておらず、一個づつ孤立していますし、これらがまるで人間の若い独身者のように、″夜遊びはするは、跳ね廻るは、家にじっとして本を読むなんて滅多にない″と言う元気活撥な分子ばかり、その独身分子たちは、常に流動して、結合分離を繰り返し、酸素とぶつかれば直ぐ酸化します。

≪F脂肪酸≫の中でも、高度のF脂肪酸と言われる≪高度≫とは、分子の分離流動性が最も激しいものに付ける言葉で、馬油の流動性は最高度と言える性質です。ですから、油脂と言う油脂の中で、馬油が一番腐りやすく(酸化)、昔から″馬の油″と言えば″臭い油″と言われました。しかし現代では、油の酸化を防止する天然添加物が発見されており、それを≪ビタミンE≫と言います。学名を″トコフェロール″と言い、やさしく言えば″小麦の胚芽油″のこと、これを極く微量混合すると、酸素分子に緩衝膜を張るような形式で、≪F脂肪酸≫の酸化腐敗を、ほぼ完全に防止しています。

現在は、この方法が油脂の酸化防止に最も有効とされておりますが、わざわざ『ビタミンE配合』を理由に価格を高くしている馬油は、言わば素人騙しです。ビタミンEのお蔭で、馬油は他の油と同じように、″日保ちする油″になりましたので、そのズバ抜けた特性だけが、光り輝いて来ます。では、『F脂肪酸の分子が強烈に分離流動する馬油』の特殊性質は、人体にどう役立つのでしょうか。